この秋、第4回となる猫毛祭りが京都で開催の運びとなりました。前回は昨年の11月、ちょうど1年前の開催でしたが、今、それがもう随分前のことのような気がしています。
この3月以降、日本全国がそれまでに味わったことのないような悲しみと苦しみに浸されています。当方自身も、立ち上がれないような日々がありました。しかし、目に見える被害に遭ったわけではなく、それはあくまで精神的なことです。実際に、毎日の生活の中で、今でも大きなご苦労を強いられている方々が大勢いらっしゃる中、当方はといえば、すくんでしまう自分自身を持ちこたえ、頑張っている皆様のお邪魔にならないようにするのに精一杯で、被災された皆様のお役に立つことなど何ひとつできない、情無い有様です。
そこで、こういう時こそ猫の手を借りよう、と思いました。
もちろん、猫は、実際的な役には立ちません。片付けも手伝ってくれないし、炊き出しだってしてくれません。
むしろ、猫と一緒にいる方々にとっては、猫の寝床を設ける場所だけは片付けたいでしょうし、炊き出しで提供してほしいのは自分はともかく猫の食事だったりして、猫は、役に立つよりはむしろ、面倒をかけたり心配の種を増やしたりすることのほうが多いでしょう。それでもなお、猫はときにその存在だけで、人の心を和ますことができるということは、これはもう、猫好きな皆様が良くご存じの通りです。
猫たちに毛をもらって作る猫毛フェルトにも、そんな力が備わっていると思うのです。
見た方が、呆れるにしても、楽しむにしても、ふっと笑顔になって下さるのです。
ともすると、眉根を寄せ、歯を食いしばってしまっていることの多い今、ふっと眉を開き、口元が緩む、そのきっかけにしていただけると思うのです。
これまで、ブログやツイッターで御披露した猫毛作品やその話題が、少しでもそんなお役にたてていたら、と祈るばかりです。
そして、当方にとっては、猫毛のような柔らかく細いものが、今、自分を支える杖になっています。
猫毛フェルトは、今にして思うと、何と平和な手芸なのでしょうか。
手芸というものは全般的に平和な営みでしょうが、猫毛フェルトはその中でもひときわ平和なものだと感じています。
猫毛フェルトは、猫をブラッシングできる空間と時間から生まれます。平和な日常生活の中では当たり前に得られるそれらは、気づけばどんなに貴重なものであったでしょうか。
そして、大前提として、まず猫がいてくれなければなりません。
地震、津波、原発災害で、愛する猫たちを失ったり、また離れ離れになった方々も大勢いらっしゃる中、自分が猫毛フェルトを作っていられるありがたさを、今、重い意味をもって、感じています。
猫毛祭りは、昨年の3回目にして初めて東京を飛び出して、京都で開催することができ、そして今回も京都で開催します。それはひとえに会場であるキトゥンカンパニー様の御尽力の賜物です。当方が今どうにか立っていられるのも、「猫毛祭り開催」という課題を与えてくださったキトゥン家こと店主岩井ご夫妻との、大変ありがたく、また嬉しいご縁のお陰です。本当に感謝しております。
そして今回も、作品のご製作、猫毛のご提供、またチャリティ作品のご提供など、チーム猫毛のメンバーの皆様・メールマガジン「猫のおきて」の読者の皆様に大変お世話になりました。
また、参加を快諾し、素晴らしい作品を製作して下さる招待作家の皆様も、本当にありがとうございます。
その他、いつも有形無形の支援を下さる全ての皆様に、この場を借りて、深くお礼申し上げます。
皆様のお陰で、今回も猫毛祭りを開催することができます。
猫毛祭りは、京都の後、香川、神奈川と巡回いたします。ご縁があればぜひ東北でも、猫毛作品をご覧いただきたいと思っています。
猫毛作品が、一人でも多くの方を笑顔にしますように。
2011年秋 月の美しい夜半に 蔦谷K